「親の介護、そろそろ考えなきゃ……」と思いながら、何から手をつけていいかわからない。
そんな状態で止まっている方は、きっと多いと思います。
私自身、介護士として老人介護施設と重度訪問介護の現場で働いてきました。それでも、いざ「自分の親のこと」となると、頭の中が真っ白になる感覚がありました。専門知識があっても、身内のこととなると別の話なんです。
以前とはどこか違う親の様子を目の当たりにするたびに、心のどこかがざわつく。でも、何から始めればいいのかわからない。
この記事では、「親の介護 何から始める」という問いに、現場経験をふまえながらできるだけ具体的にお答えします。難しい制度の話は後回しにして、まず「今日からできること」を整理していきます。
- 介護が始まる前に整理しておくべき情報
- 親の状態を把握するための具体的な確認ポイント
- 最初に相談する窓口と、その使い方
- 介護保険を使うまでの基本の流れ
- 家族で話し合っておきたいこと
親の介護は「情報整理」から始める
親の介護が始まるとき、多くの方が最初に感じるのは「情報が多すぎて、何が正しいのかわからない」という混乱です。
介護保険、要介護認定、ケアマネジャー、地域包括支援センター……。聞いたことはあっても、全体像がよく見えない。最初のステップは、制度を覚えることではなく、情報を整理することです。
整理すべき4つの情報
1. 親の健康状態に関する情報
かかりつけ医はどこか、どんな持病があるか、飲んでいる薬は何か。意外と知らないまま時間が経っていることも多いです。
2. 経済的な情報
年金の有無と金額、貯蓄の目安、加入している保険の種類。介護費用は在宅でも月数万円〜十数万円かかることがあります。「お金の話は聞きにくい」という方も多いですが、曖昧なままにしておくと後で困ります。
3. 住環境の情報
今の住まいで介護できる構造かどうか、段差や手すりの有無、緊急時に駆けつけられる距離かどうか。
4. 親の意思・希望
どこで老いていきたいか、延命治療はどうするか。これが一番難しく、一番大切な情報です。
まずやること:「介護メモ」を1枚作る
上記4つの情報をノートやスマホのメモにまとめておくだけで、いざというとき動き出しやすくなります。完璧でなくていい。今わかっている範囲から始めましょう。
まず確認すべき親の状態

介護の準備を始めるにあたって、一番の基本は「今の親の状態を知ること」です。医療の知識がなくても確認できる、日常生活のサインをお伝えします。
親の介護について考えるタイミング
次のような変化が続いている場合、専門家への相談を考えるタイミングかもしれません。
身体面
- 歩くスピードが以前より遅くなった
- 階段の上り下りが億劫そう、または怖がっている
- 食事の量が減った、体重が落ちた
- 薬を飲み忘れることが増えた
生活面
- 家の中が以前より散らかっている
- 請求書や通帳の管理が怪しくなってきた
- 料理の種類や頻度が減った
- 同じ話を短い間隔で繰り返すようになった
- 場所がわからないことが増えた
社会面
- 外出の機会が明らかに減った
- 友人や近所との付き合いが少なくなった
これらのサインが複数重なってきたとき、「まだ大丈夫」と思い込みすぎず、一度専門家に相談してみることをおすすめします。
親と離れて暮らす場合は親の状態をどう確認する?
親と離れて暮らしている場合、日常の変化に気づきにくいですよね。そういうときは、「帰省のたびに冷蔵庫の中を見る」という方法が意外と有効です。
冷蔵庫の中は、その人の生活のリアルが出やすい場所です。賞味期限が切れたものが多い、同じものばかり入っている……そういったサインが見えやすかったりします。
また、親の近くに住む兄弟・姉妹や、昔からの近所の方に「最近どうですか?」と聞いておくのも大切な情報収集です。
親の介護で最初に相談すべき場所は地域包括支援センター
「相談したい」と思ったとき、最初に連絡する場所は、地域包括支援センターです。
地域包括支援センターは、市区町村ごとに必ず設置されている、無料の相談窓口です。
地域包括支援センターでできること
| できること | 内容 |
|---|---|
| 介護に関する総合相談 | 「何から始めればいい?」という漠然とした悩みもOK |
| 要介護認定の申請サポート | 介護保険を使うための手続きを一緒に進めてくれる |
| ケアマネジャーの紹介 | 適切な担当者へつないでもらえる |
| 権利擁護・虐待対応 | 緊急の場合にも相談できる |
| 介護予防サービスの案内 | 「まだ元気だけど予防したい」という段階でも使える |
現場で働いてきて感じるのは、「もっと早く相談に行っていれば……」というケースの多さです。
ご家族の中には、介護に限界になってから駆け込む方も多いんです。
地域包括支援センターは、「まだそこまで大変じゃないんですが……」という段階でも、ちゃんと対応してくれます。
介護は早くから備えて対応すると、体のことや認知の衰えを緩やかにすることができます。
そのため、地域包括支援センターは、早い段階での相談を歓迎しています。
地域包括支援センターの探し方
「お住まいの市区町村名 + 地域包括支援センター」で検索するか、市区町村の役所・役場に電話で問い合わせると教えてもらえます。費用は一切かかりません。
「何を話せばいいかわからない」という方へ
相談窓口に電話するのって、案外勇気がいりますよね。「こんなことで相談していいのかな」と思ってしまいがちです。
でも、「親の様子が少し心配で……」それだけ言えば大丈夫です。あとは担当者がていねいに聞いてくれます。
介護保険サービスを使うまでの基本の流れ
介護保険は自動的に使えるわけではなく、申請と認定が必要です。でも、流れを知っておけば怖くありません。
5ステップで理解する介護保険の手続き
市区町村の窓口(または地域包括支援センター)に「要介護認定の申請書」を提出します。本人か家族が申請できます。
市区町村から調査員が自宅を訪問し、日常生活の状況を確認します。「いつもより元気に見せようとする」親御さんも多いんですが、普段の状態を正直に伝えることが適切な認定につながります。家族が同席して補足説明するのがおすすめです。
かかりつけ医が意見書を作成します。かかりつけ医がいない場合は、市区町村が指定する医師の診察を受けます。
調査結果と意見書をもとに審査が行われます。申請から結果が出るまで、通常30日程度かかります。
「要支援1〜2」または「要介護1〜5」のいずれかに認定されるか、「非該当(自立)」となります。
| 区分 | 状態の目安 |
|---|---|
| 要支援1〜2 | 基本的な日常生活はほぼ自分でできるが、一部サポートが必要 |
| 要介護1〜2 | 日常生活に部分的な介護が必要 |
| 要介護3〜5 | 日常生活全般に介護が必要(数字が大きいほど重度) |
認定後の流れ
認定が出たら、ケアマネジャー(介護支援専門員)という担当者がつきます。
ケアマネジャーはケアプランを作成し、使うサービスを一緒に考えてくれるコーディネーター的な存在です。介護保険を使えば、1割〜3割の自己負担でサービスを利用できます。
知っておきたいこと
認定申請は、入院中でも申請できます。
退院後すぐに介護が必要な場合に備えて、入院中に申請しておくとスムーズです。
親の介護について家族で話し合っておきたいこと
介護の準備で、制度を調べるのと同じくらい大切なことがあります。それは家族で話し合っておくことです。
現場で一番「大変だな……」と感じるのは、制度的な遅れよりも、家族間の認識のズレが原因で動けないケースです。「誰が主に担当するか決まっていない」「お金の話を誰も切り出せなかった」「在宅か施設かで意見が割れた」——そういった状況が、介護の現場でよく起きています。
特に、家族間の連携と協力がとても大事だと感じます。
親の介護は、どうしても主担当(キーパーソンとも言います)に重みがかかりがちです。親のケアに加えて行政とのやり取りやヘルパー、ケアマネジャーとのやり取りなども行わなければなりません。一人で抱えるにはとても荷が重く、一人の状態が長く続くと疲弊してしまいます。
介護は、実際目で見ないと分からないことが本当に多いです。
「〇〇がやってくれているから大丈夫」と思わずに、家族でよく話し合うことと分担することがとても大事です。
話し合っておきたい5つのテーマ
1. 誰が主担当になるか
すべてを一人で抱える必要はありません。「長男・長女だから」という思い込みは一度外して、実際に動ける人・動ける範囲を正直に出し合いましょう。
2. 費用をどう分担するか
親の貯蓄で賄えるのか、兄弟で分担するのか。後でもめないために、早めに方針を決めておくことが大切です。
3. 在宅か施設か
「今の段階でどうするか」だけでなく、「将来的にどうなったらどうするか」まで話しておくと理想的です。
4. 仕事との両立についての認識合わせ
介護休業制度は、知っていれば活用できます。家族間で「仕事を辞めてはいけない」という共通認識を持っておきましょう。
5. 親本人の意思
これが一番難しく、一番大切です。元気なうちに「どこで、どう老いていきたいか」を聞いておけると、後の判断がずっと楽になります。
親の介護の話、どう切り出せばいい?
家族に「介護の話をしよう」と言い出すのって、勇気がいりますよね。「縁起でもない」と思われそうで。
ここはぜひ一方踏み出して、家族で話しあって欲しいです。
話しづらい内容だからとずっと後回しにした結果、親の介護が始まってから慌てたり後悔したり、他の家族に不満を持ったりするご家族様をたくさんみました。
親の介護はいつか必ず迎える、避けられない現実の問題です。
何より大事な親の意向の確認や決めるべきことが定まっていない状態で介護が始まってしまうと、何かが起こるたびに迷ってしまいます。不安が常にあり、時には家族同士の争いにも発展することもあります。
親本人の意思がしっかり家族に伝わっていたとしても、いざ命に係わるような大事な決断の場面になると迷いが生じます。少しでも迷いや不安を減らすために、日ごろから家族みんなで将来のことを話し合えるようにしましょう。
介護が始まる前に作っておきたいチェックリスト
以下のチェックは全部一度にやらなくていいです。気になるところから一つずつ、自分のペースで確認していきましょう。
親の情報チェックリスト
健康・医療
- ☐ かかりつけ医の名前・連絡先を知っている
- ☐ 主な持病・通院先を把握している
- ☐ 服用中の薬の名前と量を把握している
- ☐ お薬手帳がどこにあるか知っている
経済・行政
- ☐ 年金の種類と受給額をおおよそ把握している
- ☐ 介護保険証の保管場所を知っている(65歳以上は全員に交付)
- ☐ 銀行口座や保険証券の保管場所を把握している
生活・住環境
- ☐ 自宅の段差・手すりの有無を確認した
- ☐ 緊急時の連絡先リストがある(近所の方・かかりつけ医・ケアマネなど)
- ☐ 近隣や民生委員との関係がある
意思確認
- ☐ どこで老後を過ごしたいか、親の希望を聞いたことがある
- ☐ 延命治療についての意思を確認したことがある
- ☐ もしものときのための書類(エンディングノートなど)の有無
チェックリストは一度に完成させなくていい
全部埋めようとしなくて大丈夫です。「ここが空白だ」と気づくこと自体が、次の一歩につながります。
よくある質問
親がまだ元気でも、地域包括支援センターに相談していいですか?
はい、むしろ元気なうちに相談しておくのがおすすめです。
地域包括支援センターは「介護が始まってから行く場所」ではなく、「介護の予防から相談できる場所」です。
「こういう状態になったらどうすればいい?」という先の相談も受け付けています。
要介護認定の申請は、誰でも代わりにできますか?
家族であれば申請できます。
地域包括支援センターや居宅介護支援事業所のスタッフが代行することもできます。
遠距離で申請が難しい場合は、地域包括支援センターに相談してみてください。
介護保険を申請すると、必ずサービスを使わないといけないの?
そんなことはありません。
認定を受けても、サービスを使うかどうかは自由です。「とりあえず認定だけ取っておく」という選択肢もあります。
急に状態が変わったとき、認定がすでにあると動き出しがスムーズです。
仕事をしながら介護は本当にできますか?
できます。ただし、「一人で抱え込まない」ことが前提です。
介護保険のサービスを使いながら、家族で役割分担をして、職場には早めに状況を伝えておく。
この3つが揃うと、仕事と介護の両立はぐっとしやすくなります。
介護にかかる費用の目安を教えてください
在宅介護の場合、介護保険サービスの自己負担(1〜3割)に日用品や交通費などを含めると、月2〜5万円程度が目安です。
施設の場合は種類によって大きく異なり、特別養護老人ホームは月8〜15万円程度、有料老人ホームは月15〜30万円以上になることもあります。
親の年金収入や貯蓄状況によって変わるため、ファイナンシャルプランナーや地域包括支援センターへの相談も選択肢です。
まとめ:介護について「知っている」が、介護の選択肢を広げる
親の介護は、突然始まることもあれば、じわじわと近づいてくることもあります。
「まだ大丈夫」と思っているうちに時間が過ぎていくのは、仕方ないことだと思います。でも、少しだけ早く動き出すことで、選択肢は広がります。
現場で見てきたご家族の中に、「ヘルパーさんが来てくれる時間だけが、私の息抜きなんです」と話してくれた方がいました。追い詰められた後に地域包括支援センターに相談し、在宅サービスをつないでもらって、生活を立て直した方でした。
知らなかったから、もっと早く使えたサービスを使えなかった。それがとても残念で、今でも印象に残っています。
「知っているか、知らないか」で、介護の景色はまったく変わります。
この記事を読んでくれたあなたは、もうすでに一歩踏み出しています。あとは、気になるところから一つずつ動いていきましょう。
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